高品質な静岡型吟醸酒を支える技術支援

静岡型吟醸を語る上で、静岡酵母とその開発者である河村伝兵衛さんによる、醸造指導を外すことが出来ません。河村さんは元・静岡県沼津工業技術支援センター研究技監。静岡酵母の研究開発と、その醸造指導に尽力され、静岡県産酒の品質向上に多大な功績がありました。河村さんが主導した吟醸酒は「静岡型吟醸」と呼ばれ、それまで日本酒の産地としては、全くの無名だった静岡県を、全国に知られる銘醸地へと引き上げました。河村さんは2016年、73歳で逝去、その偉大な功績は、多くの酒造関係者から惜しまれました。こうした河村さんによる酵母開発や、醸造指導を受け継いだのが、沼津工業技術支援センター、バイオ科主任研究員の勝山聡さんです。「私たちの大きな役割の一つは、静岡酵母を安定的に県内の酒造会社さんに供給するということです。静岡酵母と一口に言ってもHD-1、NEW5、No-2、HD-1の泡なし酵母HD-101など、様々なタイプが使用されています」「凍結保存した株から、その年に使用する酵母を培養しますが、出来るだけオリジナルに近い形で培養されたものを選んでいます」「また、静岡酵母の新しいタイプの研究や、河津桜酵母など、全く新しい酒造用酵母の開発も行っています」。
静岡県工業技術研究所
沼津工業技術支援センター
バイオ科 主任研究員
勝山 聡(かつやま さとし)  
右の小瓶の中の液体は、培養された静岡酵母HD-1。試験管のなかのスラント(斜面培地)には、静岡酵母のコロニーが見える。
河津桜酵母によるスパークリング日本酒など、静岡の新系統として話題になりました。酵母の研究開発だけでなく、醸造に関する相談や指導も行っているとお聞きしていますが。「そうです。静岡酵母に関するノウハウといった経験値を、センサーや解析装置を使って分析し、データ化するといった取り組みを行っています。酒米に関する情報や、醪(もろみ)の情報をデータ化することで、情報の共有が可能になりますし、狙った酒質の再現性を高めることも可能になります」先ほど一部を拝見しましたが、こちらには多くの解析装置が揃っています。「はい。支援センターの設備を利用した、醪やお酒の分析サービスも行っています。例えば、鑑評会出品酒の香り成分を分析して、カプロン酸エチル優勢なのか、酢酸イソアミル優勢なのか、こうした官能によっていた部分も細かく数値化が行えますので、各酒造会社さんに利用いただいています」
夏には県内酒造会社の蔵人を集めての醸造の講習会、冬は全蔵を巡回しての醸造指導など、積極的にお酒造りに関わっていらっしゃいますが、さらに新しい取り組みも始められたそうですね。「実は、もやし(種麹菌)の開発に取り組んでいます。現在、県内では2~3種の種麹が使われていますが、静岡酵母との組み合わせを前提とした、オリジナルの麹菌が開発出来ないか研究中です。静岡酵母、誉富士にオリジナルの種麹が加われば、完璧な静岡県産のお酒になります。酒造会社さんに協力いただきながら、出来るだけ早く開発したいと考えています」 静岡県産酒のさらなる高品質化、そして付加価値の向上にも取り組まれている勝山主任研究員。オリジナル種麹の完成を楽しみに待ちたいと思います

シャーレ内の静岡酵母単一コロニー。沼津工業技術支援センターでは静岡酵母を守りながら、新しい酵母開発も行っている。