徳川家譜代の名門である西尾家が治めた横須賀藩。今も城下町の風情を残す旧道沿いに、遠州山中酒造の歴史を感じさせてくれる蔵屋敷があります。「昔は通りに面した間口で税金の額が決まりましたので、間口はなるべく狭くして、奥へ深く広くという構造になっています」と自ら杜氏も務める山中久典社長が教えてくれました。旧街道に面した事務所の壁には、古くからの鑑評会の賞状がびっしりと飾られ、歴史ある蔵の趣をより感じさせてくれます。山中社長が最初に案内してくれたのは洗米場、そのすぐ脇に大小二つの甑、和釜が並びます。「水は南アルプス赤石山系の伏流水を、地下100メートルから汲み上げています。水質は超軟水、南アルプスから横須賀の海岸線まで、地下でゆっくり磨かれたとても柔らかな水です。」先代の山中隆社長は、若い頃には国税庁の酒類鑑定官を目指されていた時期もあるほどの、理論派で知られた蔵元だったとお聞きしています。その先代の薫陶を受けながら、当時専務だった久典社長が杜氏職を引き継いだのは平成12年。以来、酒造りの責任者として蔵で指揮を執られています。「いやいや、家族総出での酒造りですから、指揮というほど偉くないかな。ぶーぶーと文句をいいながら、娘たちも酒造りを手伝ってくれます。」と笑う。ほんの少し言葉を交わしただけで、その優しい穏やかな人柄が伝わって来ます。