時代、時代にフィットさせてこそ愛される酒となる。
▲600kgの小仕込み用タンクが並ぶ、吟醸・大吟醸用の仕込み蔵。
──そうですかー。それはぜひ飲み比べてみなくては(笑)。
今回の取材では、静岡酵母についてもお聞きしているのですが、こちらでは静岡酵母は。
うちでは静岡酵母は使っていません。私の考える新しいコンセプトの酒が、静岡酵母では造れないからです。今、世代によって、好まれる味覚がすごく変わってきていますから、以前のままの酒ではダメだと思っています。これからは、今の若い世代の人たちに、日本酒を飲んでいただかないと話になりません。蔵元として、そこにもっと心を砕くべきだと思っています。
──静岡型吟醸だけでは、今の若い人たち、あまり日本酒に馴染みのない世代の味覚を満足させられないと。
人間って不思議なもので、自分が慣れ親しんだ味が一番で、その印象をずっと引きずっているのですね。例えば、私が若い頃に旨いと思って飲んでいた酒を、今の若い人たちが同じように旨いと感じるとは限りませんよね。何故なら、食べてきたもの、慣れ親しんできた味が全く違いますから。私たちが、広くいえば日本酒が生き残るためには、現在の味覚、嗜好に合う酒を造らなければなりません。
はっきりいって、うちの酒は静岡型吟醸ではありません。あっさり型の9号(協会酵母)とも違って、味も香りもインパクトの強い華やか酒です。それでいて、飲み口がすっきりしている。
──なるほど。今年の「地酒まつり in東京」での取材では、若い女性から「臥龍梅」という声を一番お聞きしました。もちろん、それほど多くの方からお話を聞いたわけではありませんので、データ的な裏づけはありませんが。
そうですか。それは、ありがたい評価です。かつて明治から大正にかけて、和服から洋服へと変わっていった時代がありました。現代にいたっては、多くの人にとって和服は、人生に一度の晴れ舞台や、温泉旅行の浴衣くらいしか馴染みがありません。私は日本酒が時代の変遷に合わせて変わらないままだと、いつか今の和服と同じような存在になってしまうのではないか・・・そんな不安や、懸念を感じています。
──300年以上続く老舗酒蔵の蔵元として、その不安や懸念への答えが、「臥龍梅」なのですね。
そうです。伝統の丁寧な造りを守りながらも、思い切って味や香りにバリエーションをつけ、メリハリの利いた酒を造る。そして、若い人たちに、「古くて新しいお酒」として受け入れられる酒。現在の味覚、食生活。更にいえばライフスタイルにフィットする酒。そうした、時代の変化を見据えた酒質の追及が、これからますます大切になっていくと思っています。
──ありがとうございました。
(取材日:2007年9月27日)