時代、時代にフィットさせてこそ愛される酒となる。
──ということは、海外展開についても、積極的にお考えということですか。
そうですね。現在、シンガポール、ドバイ、アメリカに輸出しています。アメリカの需要は順調に伸びていますね。ご存知の通り、アメリカは人種の坩堝でしょう、ですから偏見やブランド志向に走らず、個人的な意見や好みをすごく大事にしている。だから、日本酒も新しい酒として、受け入れてもらえたのだと思います。
今後は中国やヨーロッパへも、輸出を伸ばしていきたいのですが、残念な事ですが、ヨーロッパには日本の文化に偏見をもっている方、日本の文化に興味を示さない方も多いですからね(笑)。アメリカ市場よりも、開拓に苦労するかもしれません。
──だとすると、今回の受賞はとても良いタイミングになりましたね。それでは、国内での状況はいかがでしょう。
昔からの銘柄である「静ごころ」「羽衣の舞」は、地元を中心とした引き合いが主です。地元の方に長く飲んでいただいていて、本当にありがたく思っています。
「臥龍梅」については、8割以上が県外への出荷です。平成14年の秋から「臥龍梅」の出荷を始めたのですが、消費は圧倒的に東京が多いです。それと、最初は想定していなかったのですが、北海道や東北、九州といった遠隔地の酒販店さんが、熱心に売ってくださっています。
──県外へ8割以上ですか。静岡でも売り切れてしまっていたりして、なかなか手に入りにくい時があるのはその所為ですね(笑)。
それもありますが(笑)、「臥龍梅」は大吟醸・吟醸・本醸造とも、品質を最優先させた600kgの小仕込みですので、もともと大量生産ができません。どうしても、生産できる量が限られてしまいますから、うちの酒を「好きだ」といってくれるお店のみと、お取引しています。そうでないと、売り方にも愛情がこもらないでしょう?
▲もうすぐ始まる仕込みに備え、準備の整った麹室。足場の整備も終了し、蔵人たちを待つ仕込み蔵。
──酒販店の主人が、その酒のファンかどうかで売れる量が全く違うと、他の酒蔵さんからもお聞きしましたが、やはり「好き」ということは重要なのですね。
今、仕込みのお話が少し出ましたが、こちらの水は興津川の水源近くからとのことですが、酒米は?
滋賀県の農家と提携しています。田植えの時期には私も滋賀まで行って、田植えを手伝ったりしています。品種は主に山田錦ですね、それと山田錦の親で、幻といわれる短稈渡船を作りました。3年前から植え始めたのですが、今年やっと仕込み米として使うことができました。純米吟醸は米の種類で味が変わりますからね。静岡県品種の誉富士でも造っています。ただ、どうも溶けやすいということから、今、さらに研究中です。
──そういえば、お米にこだわったラインナップがあるそうですね。
そうです。まったく同じ酵母、水で造り方も変えず、「山田錦」「短稈渡船」「誉富士」「五百万石」「備前雄町」の5種で同じように造ってみました。そうしたら、米でこんなに味が違うものなのか!と驚くほどで、実に面白いものができました(笑)。