軽く、円く、綺麗で飲み飽きしない酒。
料理とのマッチングだけを考えるのでなく、自分スタイルを大切に楽しみたい。
▲夏の空に椰子の木の街路樹と高い煙突。南国の蔵を思わせる。
──そういうことだったのですか。では、そこから勉強を始めたのですか?
そうです。もう20年以上前の話になりますが、日本酒造組合中央会の醸造技術者養成初級、上級の通信講座を3年かけて勉強し、念願かなって沼津工業技術支援センターの河村先生に就いて研修生として一年間まるまる勉強させてもらいました。そんな時、蔵人のひとりが仕込み中に怪我をしてしまい、急に作業に穴が空いてしまったのですよ。それで仕方なく杜氏たちと泊り込みで、生まれて初めて作業に参加しました。実際の現場で夢中になって働いてるうちに、だんだん酒造りが面白くなってきましてね、すっかり酒造りにはまってしまいました。
(*)河村伝兵衛氏:元・静岡県沼津工業技術支援センター研究技監。静岡酵母の研究開発と、その醸造指導に尽力し、静岡県産酒の品質向上に多大な功績があった。平成15年に退職。現・株式会社RIVERSON代表取締役。
──なるほど、興味深いお話を伺いました。
ところで、ここは「広重美術館」もある旧東海道に沿った、観光客にとっても、とても立地のいい場所ですね。昔からずっとこちらで創業されてきたのですか?
はい、大正元年(1912年)にこの場所で蔵を開きました。今現在、昭和57年からここの杜氏を任せている南部杜氏の山影純悦と、その技を引き継ぐ7人の蔵人たちが頑張ってくれています。
▲蔵の外の倉庫。出荷する荷物が行き交う。
──山影さんといえば、南部の名杜氏ですよね。いつか仕込み時期に取材させてください。
そう・・・仕込みといえば、こちらでは水と米は、どちらのものをお使いですか?河村先生に就いておられたということは酵母は静岡酵母なのでしょうか?
水は、この蔵の横を流れる社名の由来にもなった神沢川の2km上流からですね。米は山田錦を主に使っています。
酵母については、私はいわば静岡酵母による造りの第一期生ですからね。静岡型吟醸の特長といえば、酸が少なくて、香りもほのかだから、軽く、円く、綺麗で飲み飽きしない・・・優しい味。以前は静岡酵母のみでやってきたのですが、今では蔵内培養酵母で、酒質によって酵母を使い分けています。たとえば、協会酵母10号や明利酒類のM310も目的や用途によって使い分けています。